九段下に魂は戻るのか


週末母の家でのんびり過ごしていたとき、ふと父方の爺様の話が出た。
爺様は海軍だったので艦艇と共に沈んでしまって遺骨もない。
それは昔から聞かされていたので分かっていた。
今回聞いた話は以前も聞いたことがあったけど、あまり
気にしておらず、でも今回ははっきりと記憶されたエピソード。

終戦後かなりたってからある日遺族である父のもとに九段下から
記念式典の招待状が届いたそうだ。


行ってみると手渡されたのは手のひらにちょこんと乗るくらいの
小さな金色の杯だったそう。それを手にして、ある遺族の方が
「こんな杯なんかいらない、どうか息子を返して下さい」と
大粒の涙を流しながら訴え、そしてその杯を投げて帰ったそうだ。


父はそのときたった一度だけ九段下に行き、それ以降は二度と行くこともなく
その話をすることすら敬遠したそうだ。


遺骨のない兵士の遺族のよりどころははたしてあの場所にあるのか。
英霊と讃えられて、なお、魂はあの場所に戻るのだろうか。


父がそれ以降参らなかったということは
わたしは爺様の魂はあの場所には行かないように思う。
魂はきっと孫のわたしたちのDNAの中に残っていて、それでいいと思う。